5月の楽しみ
今年の正月に高校時代の親友から「急だけど少し会えない?」と連絡が来た。
訳も聞かされてなかったけど「何かあったのかな?」と思い、佐久市へ向かった。
ここで少しだけ脱線して僕の話をしよう。
僕は生まれも育ちも松本。
でもそんな僕も松本を出た時が1年ちょっとだけある。
高校で佐久市にある某私立高校に通い、寮生活(+少しだけ一人暮らし)を経験した。
話の冒頭で話した彼はその時の友達だ。今は甲府で働いている。
彼と共に過ごした時間はおよそ1年半。学生としてはあまりにも短い期間だ。
そんな短い期間だったが、僕たちはあっという間に打ち解け、昔から知っている友人かのように仲が良かった。
馬が合っていたのだと思う。
なぜ1年半かというと…実はその学校を僕は中退し、通信制の学校へと編入したからだ。
中退するという決断をしたのにはいろいろと理由が重なったのだが、今一言でいうならば「辛かった」のだ。
学校生活が退屈だったわけでも、勉強が嫌いだったわけでもない。
どことなく何とも形容し難い「息苦しさ」「生きづらさ」を感じていたのだ。
今でもそれが何だったのかわからないけども、あの頃に戻りたいと思ったことはない。
ただ一つ心残りがあるとすれば、彼に何も相談せず、彼にお別れも言わないまま突然学校を辞めたことだ。
幸いにも連絡先は知っていたからその後も関係は続き、時々遊んだり、食事をしたりしていた。
彼はきっと僕に気を遣っているのもあるが、きっと僕という人間をよく理解しているからこそ、僕の前でその話題を口にしたことがない。
逆に僕は説明をするべきだとわかっていながら後ろめたさを抱えたまま逃げ続けてきた。
正月に指定された場所へ行くと、彼ともう一人仲の良かった友達が居た。
もう一人の彼とは10年以上ぶりに再開したが全く変わってなく、昔に戻ったかのように何気ない話をしなんだかほっとした。
僕たちを集めた当の本人に用件を尋ねた。
すると彼は「俺、入籍したんだ。それで5月に結婚式をするんだけど高校の友達で二人にはどうしても来て貰いたいんだけど予定どうかな?」と言った。
開口一番「おめでとう」と大声で言ってしまった。驚きもあったけど素直に嬉しかった。
その反面、「たった1年半」共に過ごしただけの僕を誘ってくれるとは思ってもみなかった。
僕の中で「たった1年半」という認識が、彼にとっては「たった」では済んでなかったのだと思った。
きっとこれは僕の後ろめたさもあって僕はこのように感じていたんだと思う。
でも彼にとっては理由はどうであれ確かに「1年半」共に過ごし、その時間は大きなものだったのだと認識できた。
その時なんだか肩の荷が降りた気がして、あの頃の僕の選択を説明した。
やっと後ろめたさも何もなく、彼と面と向かって全てを話すことができた。
彼は僕が話し終えるまでずっと静かに話を聞いてくれた。
彼は僕が思ってた以上に僕をよく理解していたみたいだ。
話し終えてから「そっか。そんなことがあったんだね。気付けなくてごめん。でもちゃんと話してくれてありがとう」と言ってくれた。
どこまでも器が大きく、優しい彼は、僕が思っていた以上に素晴らしい人間だった。
5月の結婚式。
僕は彼の目をしっかり見て、「おめでとう」と力強く言えるだろう。
正月のこの出来事がなければきっと僕は昔のまま後ろめたさを感じていたんだろう。
今回このような良い機会をもらえたことに感謝してる。ありがとう。
そして、これからもよろしく。